参:サダメられし出逢い

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言って、ちょっと笑うと、セキコは桃を取り上げ手にした小刀で器用に皮をむき始める。 「この桃はね、アタシがじい様に頼まれて『力』を与えて獲れた桃なのよ」 口開けて、と、桃をひときれ鼻先に差し出される。 いっそう濃い香りが美穂の鼻腔(びくう)を刺激した。 (……あーんしろってか!) 「早く。せっかく冷やしておいたのに、アタシの熱が移っちゃうでしょ」 ここで引いたら負けのような気がして、美穂はセキコをにらみながら口を開けた。 冷たい果肉と果汁、わずかに、セキコの指先が唇に触れる。 そのことに一瞬、びくっとしながらも、モグモグと口を動かすことに美穂は集中した。 「……いい子ね」 口のなかに広がる芳香とセキコの微笑みが、味覚と視覚に甘さをもたらす。 (なんだ、このこっ恥ずかしい状況!) 美穂の体温は一気に上昇したが、元凶であるセキコは涼しい顔で桃を切り分け、皮をむいていく。 「それじゃ、問題。 アタシという赤い“神獣”が司る力はなんでしょう?」 「……生とカイタイ?」 「正解。はい、ご褒美よ」 セキコとのうろ覚えな『授業内容』を思いだし、美穂が答えると、ふたたび桃が口の前に運ばれた。 美穂は熱くなった頬のまま、エサに食らい付く魚のように、ぱくんと桃を捕らえる。
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