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(あたしはこいつの話、たいてい流しぎみで聞いてんのに)
セキコのほうは、美穂の話をきちんと聞いてくれているようだ。
一度、食生活の話題で美穂が『グルメ』という単語を使った際、聞き返され説明したことがあったのだ。
(なんか、ちょっと……嬉しい、カモ)
思わず口もとがゆるむ。
すると、セキコが興味深そうに美穂の顔をのぞきこんできた。
「……あら、ナニその可愛いニヤけ面」
「なっ……。お前があたしのオカ…、母親みたいだなって思っただけだよ!
口うるさいけど、種とか皮とかめんどくさい桃むいてくれるし!」
自分の内面を見透かされたような気がして、美穂はあわてて言い繕う。
ふうん、と、セキコがそんな美穂を面白くなさそうに見返した。
「ってか、あたしにばっか食べさせて、お前は桃、食べないのかよ?」
「……食べるわよ」
言った唇が、美穂の唇の端に触れ、次いで舌先がかすめとるように触れた。
「……っっ!!」
「ご馳走さま。
言っておくけど、アンタの母親になる気は、これっぽっちもないから」
父親にもね、と付け加えながら、セキコは今度は本当に自分でむいた桃を口に入れる。
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