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(こ、こいつ、いまあたしにキスしやがった!)
なんの前触れもなく、もののついでのように押し当てられた唇。
美穂は、怒りと恥ずかしさがない交ぜになり、思いきりセキコをにらむ。
「お前、いきなりナニしてんだよ?」
「あら、嫌だったの?」
「は? イヤとかそういう問題じゃなくて──」
悪びれた様子もなくセキコに問い返され、美穂は勢いに任せて言いかけたことの結論に、口を閉ざす。
(……あたし、なんで怒ってるんだろ)
嫌、ではなかった。
それならなぜ、こんなに気分がモヤモヤとしているのだろう?
(くやしいけど、あたしはこいつのことが好き)
自覚して、本人にも想いを伝えた。
けれども──。
美穂は、セキコから視線を外す。直視して訊くには、勇気がいったからだ。
「お前さ……あたしのこと……き、なの?」
「え?」
「だから! あたしのこと好きなのかって訊いてんの!」
結局、ケンカ腰の言い方しかできない自分は、可愛いげの欠片もない。
解っていても、長年染み付いた性格は、簡単には変えられなかった。
(…………って、返事、しろよ)
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