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確かに、いまの美穂の訊き方には難がある。
だからといって、長い間を空ける必要が、どこにあるのか。
美穂は、外した視線をこわごわと元に戻す。
いつか見た、素の顔の青年が、そこにはいた。
「……あら、ヤダ……」
ようやく口を開いたが、まだ放心状態のようで、言葉が続かない。
直後、赤くなった顔を片手で覆い、深いため息をついた。
「アタシとしたことが、抜かったわ……」
何やら反省しているようで、美穂は自分の態度を決めかねてしまう。
「アンタが、とてつもない『おニブさん』だってこと、忘れてたわ」
ふっ……と、あでやかな美貌に笑みが浮かぶ。
いとおしげに細められた眼差しが向けられ、美穂の胸がざわめいた。
「ちゃんと伝えなきゃ、伝わらないってコト」
美穂が見惚れた長い指が伸びてきて、美穂の耳を軽くなでたあと、髪に差し入れられた。
近づいて、近づけられた互いの顔。
「好きよ、美穂」
つややかな声音がつむぐ、優しい響きの想い。
そこに含まれた色に、美穂の心が同調するように染め上げられる。
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