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「ほぎゃあ! ほぎゃあ!」
「ヴぁあァァああ!」
鹿翅島周辺の警戒を行っていた巡視船が見つけたのは、奇妙な船だった。
いや、奇妙な、と言うのは正しくは無い。誰もが見たことのある白鳥型の足こぎボート。
普通、波の穏やかな公園や内湾で使用されるその船は、二つの泣き声を響かせながら、海を進んでいた。
白鳥の首に縛り付けられたベビーカーの中で赤ん坊が泣き、その声を聞いたゾンビが、それを追いかける様にして足を動かす。
足こぎボートは、その永久機関のような動力で、こんな外海まで進んできたようだった。
『擬声行動確認。一人は感染者と認定しました。許可願います』
海の上で銃声が一度だけ響き、足こぎボートはゆっくりとその動きを止める。
近づいた巡視船は、ベビーカーの張り紙を確認し、生存者を収容した。
――御船 携(みふね けい)の場合(完)
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