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御船 携(みふね けい)の場合
私は今、白鳥型の足踏み遊覧ボートのペダルに自分の足を縛りつけようと悪戦苦闘している。
家から履いてきた夫のスニーカーは、もう海へ捨ててしまった。
靴下さえ履いていない脚をプラスチック製のペダルに足首までロープでぐるぐる巻きにする。
左足を固定し終えて、私は右足に取り掛かった。
ともすれば暗闇に落ちて行きそうになる心を何とか保ってくれているのは、私の息子。
まだ生後9か月の赤ん坊の泣き声は、今朝突然この島を襲ったゾンビを引き付ける信号でもあったけれど、私の心の支えでもあった。
息子は白鳥の首にベビーカーごと固定され、その中でしっかりとシートベルトを締めている。
泣き顔の周辺には、ここに来るまでに何とか手に入れることのできた食パンが数枚と取っ手付きの哺乳瓶に満たされた乳児用スポーツ飲料。
私は思わず抱きしめてあやそうと手を伸ばしかけたけれど、自分の腕の皮膚が紫色に変色しているのを見て、歯を食いしばってそれを押しとどめた。
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