御船 携(みふね けい)の場合

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 どうしてこんな事になってしまったんだろう。  いつも通りの金曜の朝のはずだった。  夫のお弁当と朝食、息子の離乳食を用意していた私たちの家に、そんな朝の静けさを破ってゾンビが侵入してくるまでは。  それからは無我夢中だった。  起き出してきた夫がゾンビを倒し、表を確認する。  街がゾンビであふれていることを知った私たちは、船で島の外へと逃げることを決意した。  夫に促され、私は息子を抱いて車の後部座席へと座る。  ゾンビを数体轢き殺しながらも車は止まることも無く、私たちは何とか港へと到着した。  波の音だけが聞こえる海。夫が動かせそうな船を探しに向かう。  その間、私と息子は、車の中でただ震えていた。  やがて、体を引きずるようにして夫が戻ってくる。  何故だか車のドアが上手く開けられない様子の夫に代わって、私は内側からドアを開けた。  その時、初めて聞いたのだ、夫が漏らすあのゾンビの唸り声を。  夫は最初のゾンビとの戦いで既に噛まれていた。ゾンビ映画でよく見る通り、やっぱりゾンビに噛まれれば、その人間はゾンビになる。  私はゾンビと化した夫の手を振り切り、何とか車の外に逃げおおせて、夫を……ゾンビを車に閉じ込めることに成功した。  ベビーカーの中で無邪気に笑う息子の顔を見てほっと胸をなでおろし、そして気づいた。  息子をかばった私の右ひじに、くっきりと残る夫の歯型に。
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