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ベビーカーに貼り付けた「赤ん坊が乗っています」「この子はゾンビではありません」「名前は御船生です」の紙が海風にひらひらと揺れている。
今年の夏、七夕に書いた『生が元気に育ちますように』と言う七夕飾りがフラッシュバックし、私は思わずロープを持つ手が止まった。
しかし、防波堤の上に止めた車の中から聞こえる「ヴぁァァぁぁ……」と言う夫のうなり声を聞いて、私はすぐに現実に引き戻された。
両足は固定できた。最後は体だ。
私は自分の腰のあたりを、チープなプラスチック製の色あせた椅子に縛り付ける。
これが外れたら、私は生を……息子を殺してしまうだろう。
何重にも何重にも、念入りに、固く。
やがて、自分を縛り上げた私は、満足のため息をつく。
もう手を伸ばしてもベビーカーに触れる事すらできない。
息子は泣き疲れ、眠ってしまっていた。
その顔を目に焼き付けながら、私はもう一度神に祈る。
「どうか……生が元気に育ちますように……」
ペダルに固定された足を踏み出し、私は対岸に見える本島へ向かって、白鳥型の遊覧ボートを走らせた。
キラキラと美しい太陽を反射する海の中を。
ゆっくりと、ゆっくりと。
そして私の意識は、暗闇の中へと沈んだ。
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