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「七海を甲子園に連れてって」
幼い頃、七海はそんなことを何の恥ずかし面もなく言ったのを今でもよく覚えている。
そして、その言葉が俺をこの年まで野球というスポーツに縛り付けている一因になっていることは間違いない。
柳田七海は幼馴染だ。それ以上でも以下でもない。
しかし少々特殊な関係であるということは否定はできない。
彼女の父親と俺の父親は昔、稜英高校野球部でバッテリーを組み甲子園に出場し、大活躍した。
卒業後、七海の父親はプロに進んだが芽が出ず5年目で引退。その後、地元で父親の喫茶店を引き継ぎ現在も経営を続けている。
その喫茶店兼彼女の家が、俺の家のすぐ隣にある関係で、幼い頃から七海はよく俺の家に行き来していた。いや、それどころか、もうどちらがどちらの家か分からないくらいに俺たちは同じ時間を多く過ごした。彼女の母親が若くして他界していたことも関係していたらしい。俺たちはほとんど兄妹のように一緒に育ち大きくなった。
俺は父親の影響で当然のように地元の野球チームに入った。別に何かきっかけがあったわけでもない。あえて理由を述べるのだとしたら甲子園に出場した父を持ったからとしか言いようがない。
七海も一緒に同じチームに入団した。理由を尋ねると「圭一が入ったから」だそうだ。当時は嬉しかったけど、今になって思えばなんとも適当な理由だと思う。
そして、チームに入団して数ヶ月が経った時、コーチを務めていたチームメイトの父親が俺たちを見て不意につぶやいたのだ。
「お前たち、あの漫画にそっくりだな」
これも今になってみて思うことだが、この言葉が俺たちの今の関係を作り出すきっかけとなったといってもいいかもしれない。
最初こそなんのことかよくわからなかったけど、当時の俺たち2人はその漫画が気になったらしく、そのコーチに見せてくれるようにせがんだ。
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