第1章

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その漫画は、確かに俺たちの境遇とよく似ていた。細かく言うと俺には双子はいないとか、俺は主人公と違って左投げ左打ちだとか色々な誤差はあるものの、コーチが「似ている」というのもうなずける内容だった。 そんな折に七海が俺に言ったのだ。例の台詞を。 七海にとって、きっとそれは深い意味なんかなくて、ただただ漫画のセリフを真似ただけなんだろうけど、ちょうどその漫画のヒロインと名前が似ていることも相まって、当時の俺は何となく恥ずかしくなったのを覚えている。 だけど、同時にその甲子園という場所に尋常じゃないほどの興味を抱いたのもこの時だった。 もしも彼女をその場所に連れて行くことができれば、彼女はきっと喜んでくれるのだろう。そう考えると、その日から俺の頭の中で甲子園は、絶対に行かなければいけない場所へと変わったのだった。 我ながら不純な動機だと思う。しかし、当時は本気でそう思ったのだから仕方がない。それに今となっては本当に恥ずかしい話だが、七海のためだと思うと、どんなしんどい練習でも頑張れた。 そして、これは自分で言うのもどうかと思うが、人一倍練習を頑張った甲斐もあってか、俺は地元ではそれなりに名の通った選手へと成長していった。まあ、これは父親の遺伝子も関係しているのかもしれないが。 「七海を甲子園に連れて行く」 ただ、その一心で俺は野球にのめり込んでいったのだった。
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