第1章

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しかし、そんな青い志を貫き通すことができるほど世の中甘くはなかった。世の中、人間の行く手には常に様々な壁というものが存在しているのだ。 「七海を甲子園に連れて行く」という俺の夢は「思春期の揺れ動く心」という思った以上に大きな壁によって遮られることになったのだった。 中学生にもなると、俺たちの関係性を冷やかす者も出てきた。同時に俺たちの揺れ動く心も相まって、お互い徐々に距離を置くようになっていった。 距離を置くといっても仲が悪くなったわけではない。さすがに小学生の頃よりは数は減ったものの、中学校に進んでも、七海は俺の家によく行き来したし、俺も七海の家にお邪魔することもあった。 中学に進んでも俺は野球を続けたし、七海も同じチームでプレイを続けた。チームメイトとしてライバルとして切磋琢磨する仲でもあった。 しかし、それでも俺たちの間には確実に溝ができていった。学年が進むにつれ俺たちが会話を交わすことはどんどんなくなっていった。中学3年生にもなると、学校の廊下で出会ってもそのまま通り過ぎるなんてことも少しずつ増えていった。 そうして迎えた高校進学の時期。 俺は父親が所属していた稜英高校への進学を決めた。 一方七海は、俺のことを意識してのことなのか、それとも別の理由があったのか、俺と同じ稜英には進学せず、地区の強豪、佐和田高校へと進学し、野球部のマネージャーになったのだった。 七海が佐和田高校を受験すると言ったときのことは今でもよく覚えている。 「佐和田高校に行くよ」 どこか重苦しい雰囲気を携えた彼女にかけた俺の言葉は 「そっか。頑張れよ」 ただそれだけだった。 他に言いたいことがないわけではなかった。だけど、それが精一杯だった。 彼女は、その時ただただ少しだけ寂しそうに微笑んだ。あの表情を俺は未だに忘れられないでいる。 俺が小さい頃に抱き、そして密かにずっと抱き続けた夢は、この時脆くも崩れ去ったのだった。
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