1の2章

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めげへんでぇ~!と、2本目のペットボトルを勢いよく開けたのに、墓碑へはソ~…っとお水をかける。 そのギャップに微笑んだわたしも、リュックからお線香セットを取り出し準備する。 「…なぁ?ここで3本とも…水かけるん?」 『あ…』 一瞬、迷ったものの頷いた。 『今日は…そうする』 「…オレを気にせんでええで?他も参るんやったら―」 『えッ…ええの。今日は…ここだけが目的やったん』 「…そぉなん?ほな、3本ともかけてまうで。あっつ…オレも水かぶりたいわ~」 カラになった2本目を置いて、3本目を開ける腕にも光るのは水じゃない筈だ。 『…あ、最後に墓石の土台と…まわりの地面にあげて?いつもしてるから』 「土台とまわり…いつも…」 何で? 顔で聞かれたわたしは、俯いてしまう。 『…下…まで届くように…』 「なるほど。了解」 『…え』 あっさりした返事に顔を上げ、意外にも笑顔の彼を見た。 さっき何かに怖がっていた様子からして、また怖がられたり…気味悪そうな顔をされるかと… 「下で土に還ってはる人達に、直接は届かんやろけどな。気のモンやろ?恒例やったらやらな気ぃすまんわな」 『ッ…う、うん』 土に…あげたいのは、わたしの気持ちの問題で。 ただの自己満足だろう。 『…分かってくれるて…思わんかった…』 「何て?ミズキ」 『う、ううん?何も』 「?」 首を傾げながら、彼は地面にも水をまいていく。 「明け方、雨降ったのにカラッカラやなぁ。まぁ、サッて降って、パッてやんだし」 お線香に火をつけ終えて、水を吸い込む土や雑草が、少しずつ潤うのを観察し… ホッとした。 「…水、終了」 『ありがとう…』 「いえいえ」 ペットボトルを置いた木曽君はやっぱり、凄い汗。 「あ、線香OK?」 『うん』 わたし達は、墓碑の前へ…立ち並んだ。 「…戊辰役…東軍戦死者埋骨地…か」 『…』 お線香の匂いに、包まれる。
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