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突然、後ろから届いた声に、わたし達は揃って道を振り向く。
「こんにちはぁ。えらい暑い中…ご苦労さんやねぇ」
至って普通の…70代前半の年齢…だと思う。
白い帽子の下に笑みを浮かべた…小柄なおばあさんが、キャリーバッグを引いた姿勢のまま、立ちどまっていた。
キャリーというか…
お買い物へ行くおばあさんが、引っ張っている姿をたまに見かける…2輪付きバッグ…というべき?
真相は闇の中…は大袈裟で。
正式名称が謎キャリーだ。
『こんにちは。ほんま…暑いですね…』
挨拶を返したわたしには、苦笑が浮かんでいたかもしれない。
それは、思い出した暑さに対しての苦笑いだった。
「こ、こんにちは。って…え?ミズキの知り合い…?」
木曽君の小声での問いかけに、一応、考えてみるけれど…
『……。ちゃうよ?』
おばあさんの顔を、記憶の中に探しても見当たらなかった。
『掃苔とかしとったら、みんなよう声…かけてくれはる…』
「あぁ…じぃちゃんばぁちゃん特にな…」
話しかけてくる人、おじさんやおばさんも多い。
「あんたら、この辺か?」
『あ…いえ…市内からです』
「ほんまぁ。ウチもや」
コロコロコロ、キャリーを鳴らしながら、こちらへ来たおばあさんに少し驚く。
『…おかあさんもこの辺に住んではるんちゃうんですね…』
「そぉ」
てっきり、お買い物帰りのご近所さんかと―…
『あ』
そこで、半分も閉まっていないキャリーの口に気が付いた。
「ほな、もしかしておかあさんも…ここ、手ぇ合わせに?」
どうやら木曽君も気付いたらしく、わたしと同じ考えを尋ねて墓碑へ視線を流す。
「そぉ。ここで誰かと会うんは…初めてやわ。お線香…焚いてくれたん?おおきに」
もうほとんど、燃え尽きそうなお線香の煙が…ほぼ真っ直ぐに空へ向かい。
暑い空気に、紛れていく。
「嬉しいわぁ…。嬉しい」
何がとは言わず。
キャリーから、献花だろうお花を覗かせていたおばあさんは、本当に。
もの凄く…嬉しそうに笑った。
それがとても…印象的だった。
わたしには、その時の彼女が…無邪気に喜びをあらわし。
あどけない笑顔で嬉しい、と…
まるで、まだ幼い女の子のようにも…見えていたんだ。
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