1の2章

13/13
前へ
/35ページ
次へ
突然、後ろから届いた声に、わたし達は揃って道を振り向く。 「こんにちはぁ。えらい暑い中…ご苦労さんやねぇ」 至って普通の…70代前半の年齢…だと思う。 白い帽子の下に笑みを浮かべた…小柄なおばあさんが、キャリーバッグを引いた姿勢のまま、立ちどまっていた。 キャリーというか… お買い物へ行くおばあさんが、引っ張っている姿をたまに見かける…2輪付きバッグ…というべき? 真相は闇の中…は大袈裟で。 正式名称が謎キャリーだ。 『こんにちは。ほんま…暑いですね…』 挨拶を返したわたしには、苦笑が浮かんでいたかもしれない。 それは、思い出した暑さに対しての苦笑いだった。 「こ、こんにちは。って…え?ミズキの知り合い…?」 木曽君の小声での問いかけに、一応、考えてみるけれど… 『……。ちゃうよ?』 おばあさんの顔を、記憶の中に探しても見当たらなかった。 『掃苔とかしとったら、みんなよう声…かけてくれはる…』 「あぁ…じぃちゃんばぁちゃん特にな…」 話しかけてくる人、おじさんやおばさんも多い。 「あんたら、この辺か?」 『あ…いえ…市内からです』 「ほんまぁ。ウチもや」 コロコロコロ、キャリーを鳴らしながら、こちらへ来たおばあさんに少し驚く。 『…おかあさんもこの辺に住んではるんちゃうんですね…』 「そぉ」 てっきり、お買い物帰りのご近所さんかと―… 『あ』 そこで、半分も閉まっていないキャリーの口に気が付いた。 「ほな、もしかしておかあさんも…ここ、手ぇ合わせに?」 どうやら木曽君も気付いたらしく、わたしと同じ考えを尋ねて墓碑へ視線を流す。 「そぉ。ここで誰かと会うんは…初めてやわ。お線香…焚いてくれたん?おおきに」 もうほとんど、燃え尽きそうなお線香の煙が…ほぼ真っ直ぐに空へ向かい。 暑い空気に、紛れていく。 「嬉しいわぁ…。嬉しい」 何がとは言わず。 キャリーから、献花だろうお花を覗かせていたおばあさんは、本当に。 もの凄く…嬉しそうに笑った。 それがとても…印象的だった。 わたしには、その時の彼女が…無邪気に喜びをあらわし。 あどけない笑顔で嬉しい、と… まるで、まだ幼い女の子のようにも…見えていたんだ。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加