第一章「わが校ナンバーワン男子の阿手川くん」

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 小春は脱力した雰囲気と、のんびりした口調で返事する。 「今回もストーリーや歌も楽しかったし、メイクさんや衣装さんとも仲良くなれたし、たくさんの人に楽しんでもらえたから嬉しいよ」  小春は福与や節美にはお馴染みになっているスマイルマークのような笑みを浮かべている。 「それだけ? 小春ちゃんも節ちゃんみたいに将来なりたい夢とかないの? たとえば映画女優に一歩近づけたとか……」  福与は小春が全国的な人気女優になっているのに、何ら将来のことは語らず、日々が楽しければ、それでいいという考え方に物足りなさを感じている。普段はダサい女を演じている小春だが、動画撮影時には別人になりきる演技、表情、しぐさは天性のものであることを福与は十分知っているからだ。 「んー、あたしの将来ねえ、今はいろいろなことをやってみて、いつか、これだっ! ていうことが見つかればいいんだけど……、でも毎日、福ちゃんと節ちゃんのおかげで楽しいよ。2年で三人が同じクラスになれてよかったね」  小春の返事は概ね福与の予想通り。福与もティーンズ座の三人が2年で同じクラスになれたことは幸運だと思っている。
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