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プロローグ
初春の日。久しぶりに兄と会った。
兄は変わっていた。人の目を奪う容姿も、洗練された立居振舞いも、何一つ変わってはいなかったけれど、ずっと自分と似ていると思っていた所が、変わっていた――――――いや。「無くなっていた」と言う方が正しいのか。
兄は光を得ていた。そして、かつて兄の中にあった闇は、姿を消していた。
「…そう。でも、兄さんがそんなこと話すなんて珍しいね。今までは何人恋人が出来たって話してくれなかったでしょう?」
「暎に話す程のことじゃなかったからだろう。どうでもいい奴の話をしても時間の無駄だ」
飲んでいたコーヒーのカップを落とすように受け皿に戻すと、跳ねた雫が手の甲に堕ちた。
「それって、今回の人と永遠に続くとか思ってるわけじゃないよね……?」
声が震えた。
僕の目線に気づいたように、兄は顔を上げた。
「さあな」
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