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【1】 暎
「遅くまでありがとうございました、ヒロタ先輩」
放送室出入り口で深々と頭を下げられ、あわてて首を振る。
「いいえっ、今日は部活も無かったし、やることもなかったので気にしないで下さい。球技大会当日のアナウンスもがんばってください」
会釈をしてドアを閉めると、どっと疲労感に襲われた。
(行事前の委員会がこんなに大変だとは思わなかったな)
今日は、具合を悪くして早退したクラスの放送委員に代わり、仕事を手伝った。目前の球技大会の準備で、どこも猫の手も借りたい忙しさらしい。
廊下に出ると、そこは学校内と思えない程しんとしていた。
(下校時間を過ぎた学校って、こんなに静かなのか…)
いつもはきらと二人で話しながら帰るので、全然気づかなかった。
初春の夕方。コートはいらないけど、まだ上着は手放せないくらいの寒さ。
土の匂いを感じ、窓の外を見ると、花曇りだと思っていた空から細い雫が落ち始めていた。
(雨っ? 傘持ってないんだけど、どうしよう…)
そんなことを考えながら、しばしその雨の美しさに見入る。
曇りは苦手だけど、雨は好きだ。空が世界に優しくしているように見える。
「あ、そう言えば部室に置き傘(アニメーション部所蔵)があったよな!
うん、あれを借りようっ」
浮かんできた名案に頷き、部室へ向かった。
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