終末を迎えても……

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出会いは、唐突に訪れた。 「レヴィンさん、今日は上質な猪肉があるよ!」 肉屋がレヴィンに声を掛ける。 「ありがとう。……今日は良いスープが出来そう……」 笑顔で肉屋に返事をした、その視線の端に…… 黒ずくめの『何か』が映った。 肉屋もその視線に気がついたらしく、レヴィンの視線を追うように振り向くと…… 「おや!アイシャ様!!今日は祈祷の日ですか?」 親しげに手をあげ声を掛ける。 黒衣の……人は、目深にかぶったフードを取ると、 「えぇ。山の神様に豊作の祈りをと思いまして……。」 と、微笑む。 黒い、美しい髪。 深紅の瞳。 透き通るような白い肌。 そう。さながら…… (………………魔女?) レヴィンがそう思い込んでしまうような、その姿。 訝しげな表情を見せたレヴィン。 肉屋はそれを察すると、笑いながら言う。 「こーんな辺境の集落じゃ、不思議に思うこともあるだろう。アイシャ様は、集落の長の娘だ。長の血筋は代々、祈祷師の家系でな。祭や祈りの日には祭主として祈るんだよ。」 山奥の、文化もあまり発達しない、昔ながらの暮らしを続ける集落。 その『象徴』として、長の家系は生きていた。 「あの……黒い衣は?」 気になったのは、それだけ知られている家系なのに、なぜ姿を隠す必要があったのか、と言うこと。 「あぁ……祈祷師の家系は、神に純粋な祈りを捧げるために、外の穢れに触れないよう、衣をまとうのさ。祈るときには、美しいアイシャ様が拝めるぞ!」 アイシャは、 「そんな……おじさま、やめてください……」 頬を赤らめながら言う。そして、 「旅人の方ですね?何もない、素朴なところですが、どうぞゆっくりとしていってくださいね……。」 慎ましく頭を下げると、集落の奥へと去っていった。 (魔女ではなく、祈祷師……。領主様は、誤った情報を耳にしたのだろうか……。) レヴィンの心の中に、大きな興味と、僅かばかりの疑問が浮かんだ。
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