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レヴィンが『祈りの日』を実際に見たのは、それから数日後の事だった。
集落で、ひとりの子供が死んだ。
川遊びの最中に、誤って溺れてしまったそうだ。
悲しみに包まれる集落で。
その『儀式』は起こった。
葬儀の最後に。
アイシャが『祈祷衣』に身を包んで現れた。
その姿に、レヴィンは目を奪われた。
(……美しい。)
普段見かける、黒ずくめの衣とは違い、純白で美しい、絹の衣を身に纏っていたのだ。
「アイシャ様……どうか、どうか息子を安らかな場所へと……」
泣きすがる母親。アイシャはそっとその肩を抱くと、
「……必ず。」
一言だけ囁いて、少年の遺体のもとへ。
冷たくなった頬を両手で包むと……
「心さまよいし御霊を……安息の地に誘おう……」
そこから先は、集落の言葉だろうか。アイシャは呪文を唱え始めた。
それは荘厳で、その声は透明で……
集落の者達の涙を誘った。
その光景は、まさに『神秘的』だった。
祭壇に奉られた松明の炎は勢いを増したようにも見え、その中央で祈るアイシャはまるで、天からの使いのようにも見えた。
アイシャの頬から零れた、一筋の涙。
両手を広げ、天を見上げると……
……そのタイミングで、民たちが一斉に松明を消した。
燻る松明。
何本もの煙の筋が空へと立ち上り……
まるで、天国への道のようにも見えた。
「これが……祈祷師の祈り……」
レヴィンはただ、呆気に取られていた。
たかだか地方の集落の、伝統行事。
それの何と荘厳で尊く……
……美しいことか、と。
「……さぁ。盛大な宴で、この子の魂を御送りしましょう。」
アイシャの一声で、また集落内は慌ただしくなるのであった。
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