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宴の席で。
レヴィンの目は、アイシャを追っていた。
民と語らい、時には笑顔で、時には寂しげな表情を見せるアイシャ。
祈りが終わったので、その姿は漆黒の衣に戻っていた。
「……お酒、お口に合いませんでしたか?」
レヴィンがひとりで集落の様子を見ていると、アイシャが声をかけて来た。
「……葬儀の後の宴、民とどう関わったらよいか分からなくてね」
「……普通に、飲んで騒げばよいのです。魂は無事に天へと導かれました。あの子には安息が待っています。私たちはそれを祝い、あの子との思い出を偲べばいいのですから。」
そう語るアイシャは、やはり祈祷師なのだと、レヴィンは思った。
領土で、儀式の度に神父が言っていた文言に、アイシャの言葉はよく似ていた。
(魔女と言うよりは……神父寄り、だろう。)
魔女と呼ぶにはあまりにも平凡で、そして穏やかで、等身大で。
「私の祈り……ちゃんと天に届いたのかしら……」
少しだけ心配そうな表情を見せるアイシャを見て。
もっと、アイシャの事を知りたい。
レヴィンは、そう感じるようになっていた。
初めて会ったあの日の、違和感。
そして、この日見せた美しさ、宴で見せた等身大の姿……
レヴィンは、アイシャの事が気になって仕方なくなっていた。
思えば、これがレヴィンの『恋の始まり』だったのかもしれない……。
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