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甘く優しい、二人の会瀬。
ただ会って語らうだけで満足だった、レヴィンとアイシャの穏やかな日々。
レヴィンも、領土に帰ることを躊躇った。
期限は指示されていない。
達成すべき目的も、『内情を探る』という漠然としたもの。
それなら、いっそ此処に住んでしまおうか……
そう、考えていた。
しかし、そんなレヴィンの思いは、突然打ち砕かれることになる。
ある日、レヴィンが散歩をしていると。
集落の門が開いていた。
入口付近にいたのは、良く見覚えのある鎧。
(領土の……兵士?)
民をかき分けて鎧の主の顔を見る。
「レヴィン様!」
恭しく頭を下げるその男。
副長のルカだった。
「ルカ……どうしたのだ?こんな辺境の集落にまさかお前まで来るとは……」
訝しげな表情を見せるレヴィンに、ルカは冷静に答えた。
「お務め……御苦労様でした。魔女の内情を、儀式の全容を暴いてくださった。これで我々もあの娘を『魔女』として捕らえることが出来る。」
レヴィンの思考が、止まった。
「なぜ……それを?」
手足が小刻みに震える。
「領主様が仰っておりました。レヴィン様は優しすぎる、と。きっとどこかで過ちを犯すこともあるだろう……と。故に、私は姿を隠し、貴方と魔女の動向を監視しておりました。……勝手な真似を、御許しください。」
レヴィンの頭は、真っ白になっていた。
(信頼……されていなかった、ということか……)
おそらく。
領主はレヴィンに絶対の信頼を置いていたのだろう。
しかし、領土拡大、革命の流れ、異分子の恐怖……
それらを全て抱えた結果、『念を押した』のであろう。
領主は、腹心であるレヴィンにさえ、『保険』をかけたのだ。
「ルカ……いつだ?」
レヴィンの、内容の無い問い。
「明後日の、夕暮れ……」
ルカは、そんなレヴィンの心情を察し、
それでも冷静に、非情な答えを発したのだった。
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