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「ご...ごめんなさい...」
栞は真っ赤になってペコペコと頭を下げながら、掠れた声で呟いた。
小泉くんは驚いたように目を見開き、「あ、いや...平気です」と返す。
重苦しい感じの沈黙が流れたので、遮るように俺は口を開いた。
「で...どうしたんだ?何かさっき急いでる感じだったけど...」
小泉くんはピクリ、とその華奢な肩を揺らし、目線を上げる。
「えっと...あの、その...ペンケース」
「ペンケース?」
栞が反芻すると、突如スイッチが入ったかのように小泉くんがガバリと顔を上げた。
「そう、そうなんです!先輩方、僕のペンケースを知りませんか!?」
「なくなったのか?ペンケース...」
「はい。ないんです。どこを探しても...」
小泉くんは萎れたような表情で俯いた。
俺は栞と顔を見合わせて、揃って首を傾げる。
「見たか?栞」
「ううん...けーくんは?」
「俺はさっき来たばっかだしな。栞が見てねぇなら俺も見てない」
「そうですか...」
小泉くんの瞳が泣きそうに潤む。
ペンケース...かなり大事なもののようだ。
栞も同じことを思ったのか、「その中には何が入ってたんですか?なにかその...大事なものとかは」と尋ねる。
小泉くんは困ったように眉をひそめた。
「何、ってわけじゃないんですけど...あのペンケース、祖母に入学祝いに買ってもらったものだから」
確かに誰か大切な人に贈ってもらった物って、大事にしたいよな...普通。
小泉くんは独り言のような小さな声で言う。
「教室を探してもなくて、家にもなくて...友達のに紛れてるとかもなくて。それなら図書室に忘れたのかなって思ったんですけど...違ったのかぁ...」
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