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「あっ、...」
栞が隣で小さく声をあげる。
「どした栞?知り合いか?」
「ええと...大野日和さん、ですよね。3組の」
「……っはいそうですけど...どうして私の名前...?」
俺も不思議になって栞の方を見る。
なんで知ってるんだ?
栞は首を傾げて、こともなげに口を開いた。
「たしか先週の水曜日...昼休みに『赤毛のアン』を借りた方ですよね?」
「へ……」
大野さんとやらは面食らったように押し黙った。
出た、栞の『本に対する驚異的記憶能力』!
普段はそこまで記憶力が良いわけでもないのに、本のことになると恐ろしいほどの記憶力を発揮するのだ。
うーん、例えば...3歳のときに絵本の文章を暗記して唱えていたり、5歳の頃に『薔薇』なんて漢字を書いていたり(小説に出てきたらしい)。もはや伝説に近いエピソードがてんこ盛りだ。証言、by俺。
「今日はご返却ですか」
「あ、その赤毛のアンを返しに来たんです」
しばし固まっていた大野さんは、慌ててピンクのサブバッグから大きめなサイズの本を取り出す。
「…………」
栞がカウンターに身を乗り出して貸出カードにハンコを押している間、大野さんは思い詰めたように俯いて黙っていた。
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