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「ユウと……誰、かな」
「お前、こんな可愛い子となにしてるんだよ」
おそらく、幼い俺と、同じ年くらいの女の子。
……でも、その女の子の記憶は、俺の中にない。
名簿や集合写真を調べてみたが、該当するような子もいない。
「まるで、この写真にだけ、入り込んじゃったみたい」
「お、おい、幽霊なんて言わねぇよな」
「ビビるなよ、男でしょ。……でも、なんで、覚えてないんだろ」
リンと同じく、俺もまた、写真の少女を想い出せないでいた。
じっと見つめる俺の横顔を見ながら、ミツが、からかうように言う。
「子供のユウ、嬉しそうぅ。もしかすると、こっそり会ってたりぃ?」
覚えがない俺は、否定したくもなったが。
「……いや、わからない」
なぜか、穏やかに微笑む写真の少女を、拒絶しきることができなかった。
(俺は、どうして、こんなに柔らかく笑っているんだろう)
写真の中の幼い俺は、幸せそうに微笑み、棒で地面に絵を描いている。
それと合わせるように、かすかな微笑を浮かべる、白い少女。
……なにも、浮かんでこない。まるで、その部分だけが、くり抜かれてしまったかのように。
「もしかすると、まぎれてきちゃったのかもしれないね」
リンの言うとおり、観光シーズンか何かで来た旅行者が、たまたま俺達の遊びに混じった写真なのかもしれない。
とにかく、自分の記憶を掘り返して、今、言えることは。
「――そう、だよな。知らない、子、なんだよな」
「ユウトぉ?」
「お前、どうした……」
驚きに開かれる皆の視線と、心配そうな表情。
不思議に想い、問いかけようとしたけれど。
「……なんで、俺、泣いてるんだ?」
その理由を聞く前に、自分の異変で、気づいてしまった。
知らず、俺の両眼からは、手元に落ちるほどの涙が溢れていたからだ。
なぜ、溢れるのか。嬉しいのか、悲しいのか、それすらもわからない。
ただ、なぜか。胸の奥に、なにかがずっと、引っかかっているような気がした。
――ありがとう。私の……。
(……なんで、泡のように、つかめないんだ)
俺の胸には、触れては壊れてしまう何かへの想いが、ずっと、湧き上がり続けていた。
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