君といた僕を失っても

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『海月さんって、覚えてる?』  リンがふと、その名前を口にした。 「もちろん、覚えてるよ。海月遥さん、でしょ」  僕は穏やかに、平静を装って、ディスプレイ越しに返答する。  ――忘れる、はずがない。 『海月さんって、どんな子だっけ』  話に入ってきたのは、テツ。僕の親友だ。 『ほらぁ、窓辺の席で、よく外を見てた子だよぉ』  甘くゆったりとした口調でそう話しかけたのは、ミツという女の子。  みんな、昔、よく遊んでいた友達だ。  ……十数年前はそのなかに、彼女も混じっていたのが、懐かしい。  ――今日は、小規模な再会の集い。  ――ディスプレイ越しの、ネット上の同窓会だ。  親の転勤に会わせ、中学校への進学と同時に別れてしまった、故郷の親しい友人達。  しばらく出会っていなかった彼等と、ふとした縁で連絡がついて、こうしてウェブカメラを仲介して同窓会を開いた。  もう、話し始めて一時間。  変わった部分もあれば、昔のままの一面もあって、時間はあっという間に過ぎていった。 「そうだね。彼女は、いつも外を見ていた」  海月さんは、窓際の席に座り、なにも語らず、ずっと青い空を見ていた。  まるで、その先に大切な何かが、あるかのように。 『……お前といる時以外は、ね』  からかうようなテツの言葉に、少しだけ眼を細める。  ――覚えてないなんて言って。嘘じゃないか、テツのやつ。 『そういえば、俺、最近こんなもん作ったんだけど。……よっと、これでいいかな』  少しの時間の後、僕たち全員のディスプレイに、その画像は送られてきた。  映し出されたそのデータを見て、他の三人は一緒に、驚きの声を上げる。 『なっ、これ、卒アル!?』  眼を見開いたリンが、特に大声で叫ぶ。  そう、映し出された緑色の表紙は、僕達の過ごした小学校の卒業アルバムのものだった。
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