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『う~ん。そうだけど、それはちょっと違うというか』
『ねぇ~?』
リンとミツの、女子特有の謎めいた言い方を不思議に想いながら、うなる。
居心地が悪くて、問題の写真を、改めてじっと見る。
校庭の大きな木ノ下で、男の子が、木の棒で絵を描いている。それが、僕。
それを一人の、色の白い女の子が、興味深そうに見ている。それが……海月さん。
その中心には、当時の僕が精一杯に描いた、女の子らしき顔。
『これって、海月さんだよな』
「……ご想像におまかせします」
三人の興味深そうな視線を、苦笑いでごまかす。
(写真そのものは、すごく、いいんだけど)
一生懸命な自分の姿も、楽しそうな海月さんの姿も、とても心地よい。
――海月さん、のつもりの絵も、僕達を見て笑っている。
「今も、元気なのかな」
誰か一人くらい、今を知ってるかなって想って、呟いてみる。
でも、三人とも想いこむような顔をして、言葉が出ない。
『そういえば、あれから、どうなったんだろうね』
……その場で会話をしている誰もが、彼女のその後を、知らなかった。
『噂だと、療養で都会に行ったとか、聞いたけど』
『俺らの中学校には来てないし、他の中学校で見たって話も、聞かないなぁ』
リンとテツの話を、僕は無言で聞く。二人とも、人付き合いは広い方だったから、街の事情には詳しい。その情報に引っかからないと言うことは、そういうことなのだと想う。
――彼女は、その後、どうしたのだろう。
その理由を、僕はなぜか、知っている気がした。……言葉には、できなかったけれど。
『森のなかにあったっていう家も、誰も、知らないんだよな』
『そう考えるとぉ、本当にいたのかぁ、わからないわねぇ』
ミツが冗談めかしてそう言った言葉に、僕は、想わず口を開いていた。
「いたよ。彼女は……確かに、いた」
気づいて、モニターへと眼を配れば、驚いたような皆の顔。
急に気恥ずかしくなって、顔の赤みが増すのが、自分でも感じられた。
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