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『そうだな、悪かったよ。まぁ、元気でいることを祈ろうぜ』
『ひょっこり、会えたりして。噂をすると、相手からやってくるっていうじゃない?』
「相手から、やってくる……」
その言葉で、僕の胸には、あるさざ波が起こった。
「……そうだね。偶然出会うことは、あるかもしれないね」
でも動かなければ、偶然は、起こらない。
「ごめん、少し席外すね」
そう断ってから、カメラが写らない位置に移動して、携帯端末を取り出す。
僕は、急いで仕事とプライヴェートの予定を確認して、空いている日を確認し。
(よし、この日になら……いけるな)
故郷へ帰る手続きを終えた僕の脳裏に、海月さんの姿が、ふっと浮かび上がる。
――あの海辺の森は、今も、同じ匂いを保ち続けているのだろうか。
懐かしき仲間たちとの再会も考えながら、その日の訪れが、今から待ち遠しくてたまらなくなる。
(……謝らないと、いけないしね)
ずっと、僕は忘れていた。忘れようと、していたのかもしれない。
泣きそうになりながら叫んだ彼女の、涙と風の粒を。
(彼女は、本当に、話せなかったのだろうか)
胸のさざ波は、それからもずっと治まることはなかった。
モニター越しの同窓会は、戻っても、もう上の空。
……だって、仕方がない。
本物に出会い、驚かせる日の方が、楽しいに決まっているのだから。
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