君といた僕を失っても

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「そう、なんだよね?」  僕の問いかけに、彼女は……少しだけ、微笑み、頷いてくれた。  その微笑みで、僕の記憶も、より深く掘り起こされる。  ――彼女と教室以外で出会ったのも、こうして、海辺の前だった。  寂しげに海を見つめる彼女を、散歩中の僕が見つけたのだ。 「どうして、いつも海を見ているの?」  最初は、なにも反応を返すことがなかった彼女。でも僕は、同じようにじっと海を見つめることにした。海を見るのが嫌じゃなかったのと、一人でじっと見つめる姿が寂しそうで、一緒にいようと想ったのだ。  次第に彼女は、少しずつだけれど、僕の言葉に反応を返すようになってくれた。  もっと彼女と関わりたくて、手話を少し習ったりもしたけれど、うまくいかなくて。  彼女は、小さな単語カードとメモ帳を用いて、僕と交流をしてくれた。  "ずっと、ただ一緒にいてくれたの。嬉しかったよ"  その文字を書く間、待たせて不安を感じているその表情に、「大丈夫だよ」って、僕はよく呼びかけたような気がする。  少しずつ、海月さんは変わっていった。周囲とも、少しだけ打ち解けて、無理のない範囲で遊んだりするようにもなった。  仲のよいみんなで一緒に歩いて、ここで海を見つめていたこともある。  ――そんな想い出の道を、今、大人になってまた歩いている。 「あの頃を、想い出すね」  "そうだね。懐かしい"  手元のメモ帳を見せながら、彼女は淡い微笑みを浮かべる。  彼女は今も、声を出すことはできないようだ。  だから、僕は……つい、苦笑混じりで、聞いてしまった。 「――今も、魔法は続いているの」
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