太田沢 姫(おおたざわ ひめ)の場合

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「迎えにって……姫のおうちの場所、サークルの人には教えてないはずだけどなぁ」  そう独り言をいう彼女を待ち構えていたかのように、部屋のインターホンが音楽を奏でる。  カメラのスイッチを入れると、1階ロビー前の映像がモニターに映し出された。  ゾンビ、デブ、ガリ、ゾンビ、厨二、マッチョ、ガリマッチョ。  教えたはずも無い家の場所を知っていたサークルのメンバーたちに、姫は少しの戦慄を覚える。  その躊躇する一瞬の間に、モニターに映っていたゾンビ2体は、黄色いトラックスーツを身にまとったガリマッチョのヌンチャクと、全身黒づくめで無意味に眼帯と包帯を巻いた厨二のバタフライナイフで倒されていた。 「すごーい、どうして姫のおうち知ってたの?」  ロビーのロックは解除しないまま、彼女はインターホンに向かって口を開く。  その声を聞いて、ロビー前に集まったサークルのメンバーから喜びの歓声が上がった。 「ねぇねぇ、姫びっくりなんだけど、どうして?」 「ぶひひ……それはもちろん尾行……」  答えようとした萌えアニメTシャツを着たデブの口が慌てた仲間に塞がれる。  デブを引きずり倒し、赤いバンダナを頭に巻いてケミカルウォッシュのGジャンを着たガリが代わりに前に出た。 「拙者たちは姫の事なら何でも知っているでござるよ! それより軍曹殿が盗聴した警察無線によれば、救助のヘリが30分ほどでバスターミナルに着く予定でござる。姫もご用意を」  軍曹殿、と言うのは全身迷彩柄の衣服に身を包んだ、この秋口だと言うのにタンクトップ一枚姿のマッチョの事だ。  ちなみに、細い方のマッチョはジーくん。厨二はメギド。引きずり倒されたデブはバタビン。今喋っているガリは……なんと言ったか?  姫は思い出せずに頭をひねった。  まぁガリでいい。直接話しかけなければ問題にもならないだろう。 「……姫? 大丈夫でござるか?」 「あ、うん。今からいくねー」  インターホンのスイッチを切り、姫は外出の用意をする。  エレベーターから出た姫がロビーの外を見ると、さっきまでは居なかったゾンビの死体が、3つ4つ増えていた。
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