太田沢 姫(おおたざわ ひめ)の場合

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「ごきげんよう」 「ぶひひ、姫、乙!」 「姫殿下、相変わらずお美しゅうござる」 「……姫、俺が必ず守る。安心しろ」 「ヒトマルヒトゴ、姫回収完了!」 「姫、今日もかわええなwww」  姫の挨拶に、それぞれがコミュニケーション取れているのか取れていないのか、微妙な返事が返ってくる。  彼女は彼らを引き付けてやまないやまない笑顔で頷くと、真っ白なレースの日傘を開き、肩に担いだ。 「じゃ、行こー」  バスターミナルはここから徒歩10分程度の距離だ。  姫を中心にして周りを囲むように散開したサークルメンバーを引き連れて、彼女は散歩を開始する。  数十メートル進む間にも、ナイフやヌンチャクや金属バットや特殊警棒で、次々とゾンビが倒されていた。 「いい天気ー」  手のひらをいっぱいに広げて口を隠し「ふわわぁ」とあくびをした姫の後ろで、ズジャアァっとゾンビが地面に打ち倒され、軍曹が金属バットで頭を潰す。 「全くもってその通りでござるな」  バンダナのガリが相槌を打ち、その向こうでジーくんがヌンチャクでぼこぼこにしたゾンビの頭を踏み抜き、「ほちゃぁぁぁぁぁ」と悲しげな表情で震えた。  サークルのメンバーが次々とゾンビを倒すのを退屈そうに見ていた姫は、少し離れた場所でイケメンがゾンビに襲われているのを発見し、大声を上げた。 「たいへん! みんなー! あの人を助けてあげてー!」 「御意!」  なぜかバンダナのガリが返事をして、「さぁいくでござる!」と指示をする。  一人「俺は誰も命令も受けない」とナイフをしまったメギド以外のメンバーは「応!」と声を合わせると、イケメンに群がろうとしていたメスのゾンビを吹き飛ばした。 「ねぇあたな、大丈夫?」 「……助かったよ、美しい人」  駆け寄る姫にそう答えたイケメンは、さも当然のように姫の腰を抱き、寄り添った。  姫は頬を染め、ガリに命じて救助が来ると言う情報をイケメンに教える。  彼女の手を握り「一緒に逃げよう」と瞳を見つめるイケメンに、姫は「えぇ」と答えた。 「……解せぬ」  つぶやくバンダナのガリ。  メギドが「おい、俺の姫に……気安く触るんじゃねェ」とイケメンの肩に手を掛けると、引き伸ばされたセーターの襟ぐりから、チラリとゾンビの噛み傷がハッキリと見えた。
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