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太田沢 姫(おおたざわ ひめ)の場合
今日は、朝からソンビだったの。
太田沢姫は、その日の日記にそう記すことになる。
サークルの飲み会の翌日。
昼近くまで寝ていた彼女のサークル用グループSNSには、沢山の未読メッセージが書き込まれていた。
『姫! 無事でござるか?!』
『各員に告ぐ! マルナナマルマル時までにサークル室へ集合せよ!』
『糖質カロリーさんがやられた!』
『糖質ぅぅぅぅ!!』
『バスターミナルゾンビだらけwwwww』
『ヤバい! ゾンビのたいg』
上記のようなメッセージに加えて、大量のスタンプと時々ゾンビの写真や動画まで。
朝の7時以降は姫の生存を確認するメッセージが数十分おきに表示されるだけになっていたが、それでもその未読メッセージ数は3ケタを軽く超えていた。
「朝の5時半からSNSに100件以上のメッセージとか、いくら姫の事が好きでもさすがにひいちゃうぞ」
あくびをかみ殺してそう独り言を言いながら、『今起きちゃったー。どうしたの? ゾンビなの?』と書き込む。
送信ボタンを押して1秒もかからずに、グループSNSの画面は『ぶひぃぃぃ! 姫ぇぇぇ!!』『姫ちゃん無事やったん!?』『姫殿下! 無事でござったか!』などと言うメッセージで埋まり、姫は興味なさそうにウィンクしているアニメキャラのスタンプを一つ返した。
「ゾンビかぁ。そういえばもうすぐハロウィンよね」
スマホをベッドに放り投げて、姫は部屋のカーテンを開く。
この鹿翅島では一番高層のマンション、『ハイタワーレジデンス鹿翅』の最上階である20階の部屋の窓からは、他に高いビルもそんなに無いため、周辺の様子が良く見えた。
確かに、ゾンビらしき人影が往来をうようよ歩いている。
「ほんとだー。すごーい、ゾンビだー」
スケスケのワンピースのようなネグリジェを無造作に脱ぎ捨て、シャワーを浴びると、彼女は気合の入った甘ロリ服に身を包んだ。
メイクエプロンをつけ、念入りに化粧をする。
1時間ほどかけて「いつもの」姫の顔を描き上げると、彼女は満足してニッコリと笑い、メイク道具を片付けた。
その間にもSNSは何度もメッセージを表示している。
ちょいちょいと小指でメッセージを流し、姫は困ったように眉をしかめた。
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