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「来村(きたむら)! 探したよ!」
慌てたように、奴が飛び込んで来た。
……ユートリアだ。
どこから帰ってきたのかと思うほどに、ぼろぼろになった黒いマントで、顔の汚れを拭き取っていた。
「……探した? こっちだって、ずっと……」
「え? 何? 良く聞こえない。それよりね!
来村!頼まれて欲しいんだ。いい?」
俺の話を遮るようにして、ユートリアは早口で自分の要求をし始める。人の話を聞かない。ユートリアの特徴の一つだ。
俺が返事をする間もなく、ユートリアは砂埃にまみれたカバンから紙とペンとよく分からない袋を取り出した。そして勢いよく渡してきた。おかげで、俺はむせるはめになったのだが、彼にはそういう気遣いは一切無い。
「……ゲホッ……ゲホッ……なんだよこれ!?」
「あのね?よく聞いて。今回は来村にも良いことあるから。だからね!……そう!一緒に行く?」
良いこと?
そうだ。俺とユートリアは親友とは少し違う、快楽を分け合う間柄……こう言えばいいのか。とにかく二人で冒険家紛いの事を続けている。理由は、色々あるが、簡単に言えばユートリアと何か繋がりが欲しくて、そのきっかけの一つとして俺がユートリアに提案したのだ。
ユートリアは、出会った当時、サーカスの司会者をしていた。実に滑稽で変わったやつだと、その時思ったが、関われば関わるほど可笑しな奴だった。
そんなユートリアをもっと知りたいからこその、この取引は、彼自身どう思っているのだろうか……。
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