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1か月前に再婚したばかりの父が台所に立つ義母に「おはよう」と声をかけると、帰ってきたのは「ヴぁぁアァぁぁ!」と言う唸り声だった。
父と義母の争う声に義妹が慌てて駆け付けると、頬肉の無くなった義母が濁った瞳の端正な顔で、今まさに父の肩を噛み千切っている所に出くわした。
義妹の悲鳴に遅ればせながら僕が階段を降りると、開かれたドアからもみ合いになっている3人の姿が見えた。
父が偶然手にしたフライパンで義母の頭を何度も何度も殴りつけると、ゾンビは倒れ、動かなくなる。
震えながら大きく肩で息をしていた父は、頭のつぶれた義母の横に膝をついて「あぁ……!」と一言叫ぶ。そのまま義母の遺体を抱きかかえると無言で書斎にこもり、しばらくの間大暴れしていた。
その後、急に静かになった父の書斎を僕が恐る恐る確かめると、そこには折り重なるように義母のゾンビと父の死体が転がっていた。
喉を掻き切ったらしい父の死体は、義母のゾンビを抱きしめる様に倒れていて、僕は黙ってドアを閉めることしかできなかった。
「……お父さんは?」
義妹の質問に、僕はただ頭を振る。
手を取り合って2階の僕の部屋へ移動すると、僕らは心細い思いをしながらお互いを抱きしめあい、ただ救助を待った。
父に「凪、今日からお前の妹になる菜実だ」と紹介されたその日から、お互いにずっとこうしたいと思っていた義妹との抱擁ではあったけれど、今は単純に喜んでいられる状況でもない。
なぜこうなってしまったのか?
これから僕たちはどうなってしまうのか?
そんな疑問が頭に浮かんだが、そのどれ一つとして回答が思い浮かぶことは無かった。
「ねぇ、おにいちゃん。……私、お母さんに噛まれてたみたい」
しばらくして、義妹が手首に小さくついた傷を撫でながらそう呟く。
父と一緒に義母を押さえようと奮闘したあの時についたのだろう、紫色に変色し始めたその傷を僕に見せ、菜実は笑い、そして僕にすがって泣いた。
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