黒船 入矢(くろふね いりや)の場合

2/7
前へ
/7ページ
次へ
 昨日の朝、女バス(女子バスケットボール部)の部室に仕掛けていたビデオカメラを回収するため、俺は早朝の学校を訪れていた。  合鍵で部室を開け、更衣室の奥に仕掛けたビデオカメラを手に取る。  何が撮れているか楽しみだ。  俺は満面の笑顔で部室を出た。 「動かないで!」  カギをかけていると、後ろから声を掛けられる。  朝日もまだ登らない薄暗い部室棟。  慌てて振り返ると、そこには俺がカメラで撮りたかった一番の目標、女バスの部長が腕を組んで立っていた。  彼女は俺の名前も知らない。  もちろん俺も彼女の名前なんか知らない。  でも彼女の下着姿は何度も見たことがある。  俺と彼女はそういう関係だ。 「な……なんだ?」 「なんだじゃないわ! 今更衣室から出てきたわよね?! 名前と学年とクラスを名乗りなさい!」  バカなのかこの女は?  この状況で俺が名乗るとでも思っているのだろうか?  姿は美しいけど、やっぱり生きてる女はダメだ。  俺は「はぁ~」と大きくため息をついて、そんな俺に毒気を抜かれた様子の女の隙をついて、一気に反対側へ向かって逃げ出した。 「まっ……待ちなさい!」  ほんとにバカだ。  この状況で俺が待つとでも(略  俺は渡り廊下を駆け抜け、そのまま西校舎の方へと向かった。写真部の部室まで逃げれば、俺のカメラの隠し場所はいくらでもある。  ネットにつながる端末もあるから、ネットストレージにデータをコピーすることも可能だ。  そうすれば、俺が掴まったって痛くも痒くもない。  いざとなれば、画像をネットでバラまくぞと脅してやればいい。  今までの女はそれでどうにかなった。  今恐れるべきは、コピーを取る前のメモリを奪われることだけだ。  全力で逃げた俺は、だが、普段運動しかしていないバカ女の走力を甘く見ていたことに気づいた。  簡単に追いつかれ、襟首を掴まれる。  俺と女はもつれるようにして転び、廊下に転がった。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加