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「……え? 入矢……くん?」
「は?」
俺の上に馬乗りになり、女バスの部長は俺の顔を見つめていた。
女は、俺の事をずっと好きだったと、もしかして入矢くんも私の事を好きだから盗撮したのかと、顔を赤らめながらそう言った。
これはいい。どうやらこの場は切り抜けられそうだ。
そう思って適当に話を合わせようと思ったが、次に発せられたバカ女の一言で俺は自分でも驚くほど突然にブチ切れた。
「……入矢くんが、私と付き合ってくれるなら……あの……今回の事は誰にも言わない。それに言ってくれれば、盗撮なんかしなくても……」
付き合ってくれるなら?
誰にも言わない?
盗撮なんか?
「……ふざけんな」
「え?」
「ふざけんなつってんだよ! 付き合ってくれたら誰にも言わないだと?! 脅しか?! この俺を、お前みたいな体が美しいだけのメスが脅してんのか?! しかも、盗撮なんかだと?! 盗撮の良さも分からない……芸術も理解できない下等生物が! 俺と付き合いたいなんてよく言えたな!」
突然の俺の剣幕に……たぶん、他の人から見たらいわゆる逆ギレにしか見えないだろうこの状況に、女は俺から離れて目を泳がせた。
「え、あの……ごめんなさい。脅すつもりなんか無くて……」
「俺はお前みたいにバカな言葉を撒き散らすメスが大嫌いなんだよ! 俺が好きなのはな、クソ女! お前の均整のとれた綺麗な体だけなんだよ! 俺と付き合いたいなんて夢みたいなことは――」
俺は体を起こし、床に転がった盗撮用カメラを拾うと、逃げる体勢を作る。
「――死んでから言え!」
叫びざま、俺は上靴をきゅっと鳴らして廊下を走り出した。
角を曲がり、誰も居ない早朝の西校舎をひた走る。
女は少しの間呆然としていたが、それでも俺を追いかけてきた。
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