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鉄パイプで組まれた足場にもたれかかり、携帯電話で時間を確認する。今夜は流し込んだコンクリートが固まるまでここで見届けなければならない。まだ五時間はかかるだろう。腹の奥から苛立ちを吐き出すようにため息をつく。
「俺はホモじゃない」
あいつは黙って頷く。分かっているのに告白してくるなんて、無謀としか言いようがない。
「それでも俺に好きなってもらいたいんだ?」
汗でべとついた頭がまた一つ揺れる。
「俺、昔からオンナに困ったことないんだよね。だから男とか考えらんない」
俺が特別男前っていう訳じゃない。高望みしない分、途切れもしないだけだ。
鼻をすする音が人気のない作業現場に響く。こんなとき女ならハンカチで目元を押さえたりするもんだろうけれど、コイツは黒い機械油の染みついた袖で顔を擦っている。華奢な方だとは思うけれど、どう見たって男だ。
「明日俺が言いふらしたらどうすんの? 現場監督なんだから、アンタ逃げらんないだろ? 働きづらくなるよ?」
「それでも、言いたかったんだ。好きで好きで、我慢できなくって……」
元請けのゼネコンから来ているこの男は朝一番で現場に入り、誰よりも遅くまで残っている。三十間近にも関わらず学生っぽさの残る顔は、正直頼りなく見える。しかしながら仕事ぶりはしっかりしていて、親より年上のいかつい土建屋相手によく仕切ってくれている。
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