しにそうなほど

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 近所からのクレームやら、職人からの面倒な注文、会社からの無理な工期、元々押しの強くないこいつは緩衝材というかサンドバックというか、損な役回りを頼りない笑顔でいつもこなしている。  そんな毎日だから、髪を切る暇もないし、作業着を新調しようなんて気も回らないんだろう。自分のことはいつも後回しにしている、そういう印象だったから、とんでもない感情を俺にぶつけてきたのは意外だった。 「カントクさん、俺とヤりたいの?」  俯いていた顔がおずおずと上げられる。思いつめた眼差しが、離れた俺までまっすぐ届いた。 「きみの……君の、心の中に一生居たい」  言葉だけなら映画のワンシーンみたいだ。しかしこいつも俺も絶世の美女じゃないし、ましてや作業着姿のむさくるしい男同士だ。呆れつつも、いつのまにか俺の口元には笑みが浮かんでいた。 「その無茶な願いを叶える方法。あるよ」  泥だらけの顔が期待に輝く。俺は唇だけで答えてやる。  簡単だよ。死ねばいい。 「聞こえないよ……」  俺の意地悪をあいつはどう受け取ったのか、新しい涙をまた溢れさせた。 「教えてやらない。だってアンタ本気なんだもん」  そしたら俺はどんな女を抱いたって、お前を忘れられなくなっちまう。     
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