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それから十分も経っただろうか。たばこを二本立て続けに吸い切ったが、あいつはまだ座り込んだまま帰らない。あんまりピクリとも動かないものだから、こっちもどこまで無視していいのか、離れるタイミングを逃していた。
「いつまでそこ居んの?」
「……帰りたくない。君にどれだけ嫌われようと、一緒に居たい。もしかしたら、もうこの現場に来てくれなくなるかもしれないし……」
「今夜はこれからもっと冷え込むってよ」
脇に停めていた軽バンのドアを開けて乗り込んだ。敷いたコンクリに鳥や犬猫が跡をつけないよう見守れれば、車の中にいたってかまわない。煙草に火を付けてせわしなく吸ったが、一向に気が落ち着かない。
振り返って窓越しに見れば、あいつは肩を震わせてべそをかいている。
付けたばかりの火を苛々とした手つきでもみ消してから車を降りる。後ろのドアを開け、視線で乗れと合図すると、あいつはいそいそとやってきた。
一緒に後部座席に乗り込むと、また一段階あいつの顔が明るくなった。俺がじっと見返すと、恥ずかしげに視線を落とす。恥じらう姿だけは乙女で、妙に腹が立つ。
現場と会社の移動で使う車はいつも泥だらけで、機械油と煙草の臭いが混ざって心地いいとは言い難い。シートの上には固まりの土くれがいくつも落ちたままだ。
「脱げよ」
「えっ? いいの?」
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