第一章

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 御厨マリンは、研究棟の長い廊下を歩いていた。  廊下の絨毯はふかふかで、ヒールが沈み込む。一体なんのためなのか、歩きにくくて仕方ない。  研究棟には、各教授の研究室がある。  研究室の配置は、その教授の権力によって左右される、と言われている。次期学長候補は日当りのいい部屋だったり、派閥の違う教授同士は離されていたり。  では、自分の、御厨マリンの研究室はどういう意味を持つ配置なのだろう、とたまに思う。三階の奥、角部屋。  派閥争いには属さない。そもそも、マリンの肩書きは専任講師だ。派閥争いとは無関係である。  しかし、専任講師でありながら、待遇は、殆ど教授と同じで、そのため周りからは、あまりいい印象を持たれていない。  まあ、やりにくいだろうな、とは思う。学生達と同じぐらいの年、今年二十歳になったばかりの、やや特別待遇の専任講師なんて。  一つ溜息。  飛び級に飛び級を重ねて、大学院博士課程を卒業したのが、三月のこと。専攻は魔刑法。  そして、今年からこの大学の専任講師というポジションについている。今のところ担当は、魔刑法と、魔法刑事政策、それから魔法法史。  魔法法学は新しい分野で、研究者が不足している。教えられる者が少ない。けれども、魔法士試験には必須科目で、魔法学部では開講を義務付けられている。  そういう事情もあって、マリンは異例の若さと待遇で、今のポジションにおさまっている。  親の七光り、と影で言われていることも知っている。否定はしない。何せ、父親は魔刑法の第一人者、現行魔刑法の立案担当者、御厨勇蔵なのだから。母親は魔法士だし、祖母も。一族が何らかの形で魔法にかかわっている。  マリンが周りの教授陣だったならば、親の七光りで偉そうな態度をとっている小娘め! ぐらい言いたくなる。  もう一つ溜息。
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