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自分の研究室の前につくと、鍵を出してドアを開ける。
中に入ると、後ろ手で中から鍵を閉めた。
そのまま、足を前に蹴り出すようにして靴を脱ぐ。左右の靴が少し宙を舞い、ばらばらに床に転がった。
机の脇に脱ぎ捨ててあったスリッパに足を通す。
「あー、つっかれた」
大きく伸びをすると、抱えていた書籍の類を机の上に放り投げる。
倒れ込むようにして椅子に腰掛ける。
「いったー」
右足を伸ばす。
足首が少し腫れていた。
「はー」
朝、駅の階段で捻ったところだ。
「痛いつーの」
冷静沈着クールビューティでとおっている御厨マリンが、足を引きずりながら教室に入るわけにはいかない。必死になんでもない風を装っていたから、余計痛みが増した。
しかし、クールな御厨マリン像を守るためには、仕方ない犠牲だった。今日も上手くごまかせただろう。教室では転ばなかったし。と、自分を褒めた。
悲しいかな、マリンのドジっぷりは知れ渡っているのだが、本人はそれに気づいていない。今日も無駄な努力を重ねていたのだった。
立ち上がり、足を引きずりながらカーテンを閉める。念のため。
いつもと同じ、黒いパンツスーツのズボンを脱ぐ。ストッキングも脱ごうとして、
「あっ」
爪がひっかかり、盛大に穴が空いた。
「あー。卸したてだったのに」
溜息をつきながら、それを丸めてゴミ箱に捨てる。
机の一番上、唯一鍵がかかる引き出しを開ける。
そこにはびっちりと、医薬品の類が詰まっていた。頭痛薬、絆創膏、包帯、消毒液、それから湿布。
湿布を取り出すと、捻った足首に貼る。
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