第一章

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 次の講義は、三限だ。それまでは、貼ったままにしておこう。行く前に剥がすけど。だって、クールな御厨マリンが湿布臭いまま教室にいくわけにはいかない。  同じ引き出しから予備のストッキングを取り出すと、鞄の中に放り込んだ。これは行く前に履けばいいだろう。  さすがに恥ずかしいのでズボンだけは履く。  脱ぎ捨てた靴を机の下に隠す。  それから、カーテンを開けて、ドアの鍵も開けた。部屋にいるのに鍵をかけているのがバレると、また要らぬ噂をたてることになりかねない。  座ったままで応対すれば、来客にもスリッパに履き替えていることなど、バレないだろう。小さく微笑む。  机の下の隙間から、スリッパを履いた足が見えることをマリンが知るのは、もっとずっと後になる。  何度か質問という体で研究室を訪れている栄には、とっくの昔にその秘密はバレていて、 「御厨先生、研究室では赤いチェックのスリッパはいてるんだぜ、可愛いよなぁ!」  なんて言われていること、今のマリンは知る由もないのであった。  ぶーぶーと、鞄の中から音がする。手探りでケータイを取り出す。 「北村さんか」  メールの差出人欄には知り合いの名前が書いてあった。それを確認して開くと、そこには、 「マリリン大丈夫? ちゃんと先生やれてんのー? 舐められてない?」  なんて書いてあった。  マリリン言うな。
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