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赤い。
目の前が真っ赤だった。
炎は赤い。血も赤い。
それらにまみれた、家中が赤い。
「お父さんっ! お母さんっ!」
必死に呼んでも、両親は動かない。
両親? きっと両親。もはや、見た目は違っていたけれども。
「なるほどね」
赤い世界に唯一、別の色彩を持つ男、黒衣に身を包んだ男が呟いた。満足したように一度頷き、何かを黒いノートに書き付けている。
それを思わず、きっと睨みつけた。
そんなことしたら自分だって酷い目に遭うかもしれない。冷静になった今なら思う。でも、その時はそんなことどうでもよかった。
こいつのせいでこいつがこいつがこいつがこいつが。
男はつまらなさそうに彼を見ると、つまらなさそうに宣告した。
「君のことを生かしておくのは、実験の一環だよ」
勘違いしないように、と男は冷たく言った。
炎は彼と男の周りと取り巻いているけれども、二人のすぐ傍に来ない。
知っている、これも魔法だ。
全部、魔法だ。
男は何かを呟きながら、指で宙に何かを書き付ける。
これだって魔法だ。
突然訪れた睡魔に支配される。
意識を失うわけにはいかない。このまま、そんなわけには。
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