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「おはようございます、新妻栄くん?」
「お、おはようございます、御厨先生……」
目覚めた栄の目の前で、ショートカットの女性が冷たく微笑む。
あたりを見回す。扇状に机が並ぶ部屋に座る、同い年ぐらいの人々。くすくすと忍び笑い。隣を見ると、友人が呆れた顔をしていた。
理解した。
ここは大学で、今は一限の魔法法史の授業中だ。
「睡眠学習も結構ですが、静かにお願いしますね。寝言はやめてください」
一番前の教卓から、わざわざ一番後ろのこの席までやってきて、腰に手をあてて冷たく告げるスレンダーな長身美人。これは、御厨マリン先生だ。
オッケーつまり、新妻栄は御厨マリンの授業中に爆睡した挙げ句、寝言を言った。
「え、ね、寝言言ってましたっ!?」
理解すると、悲鳴のように言葉を発する。
「ええ。何を言っていたかはわかりませんが」
「まじか……。って、いやいや、やだなぁ、寝てませんよ! 俺が御厨先生の、その美声を聞いてないわけないじゃないですか」
慌ててそう告げると、
「そう。じゃあ、答えてもらおうかしら。魔法の発展に伴い、我が国で最初に改正が試みられた法令及びその理由」
マリンが表情を変えずに淡々と問いかけてきた。
「答えられますよー」
栄は求められてもいないのに立ち上がり、教室中に聞こえるような大きな声で答え始める。
「ちょっ、栄」
隣の友人が袖を引くが、彼は、
「まあ、任せろ」
と、笑うだけだ。
「栄、そうじゃなくてね」
「それは特許魔法ですね」
高らかに告げる。
「ああ、もう、とめたからね……」
呆れたように友人は呟き、背もたれに背中を預けた。
なんで止めるんだろう。自分が答えられないわけないじゃないか。
「というのも、他の民法とか刑法とかは、そのままの条文を使ってもなんとか処理できたのですが、特許関係だけはそうもいかない。なぜなら従来の特許法では、特許の対象になる発明とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものを言うのですが、魔法は自然法則それ自体に手を加えるものです。そのため、自然法則を利用したと言えるか、特許法の保護対象になるかが問題となりました」
マリンはそれを背中で聞きながら、教卓まで戻る。栄の方を向く。彼は自信満々の表情で続きを述べていた。
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