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「先ほどはすみませんでした」
頭を下げる。
「新妻くん、さっきの答えも完璧だったし、やればできるんだからきちんとやってください。というか、さっきぐらい答えられるならば、私の授業にでる意味なんてないんだから。さっきも言ったように出席とらないし、遠慮なく休んでくれていいのよ?」
「なんでそんなこと言うんですか!」
栄は悲鳴のような声をあげる。
「御厨先生のご尊顔が拝見できないなんて、そんなことっ」
そんなこと、あってはならない。
「あとそのテンションもやめてくださいね」
「いやもう、本当俺、御厨先生にご教授いただきたくてこの学校入ったんで! 御厨先生の論文に感銘を受けて!」
「はいはい」
もう何度目かのアピールは、今日も適当にあしらわれた。
そりゃあ、我ながら、
「高校生の時に読んだ、御厨先生の、博士論文がすごくて!」
とか言われても信用出来ないだろうけどさ。高校生が博士論文読むとか、普通ないし。でも、可愛い教え子の言うこと信じてくれたっていいじゃないか! とか言ったところで、別に君は可愛くないですけれども、的なこと言われるだけだろうけれども。ああでも、そういう冷たいところもちょっといいよな。
なんて思ったことを口にしたら引かれるだろうから、
「実際に会ってみたらクールビューティで! もう、俺は先生にめろめろです」
ある程度無難に言葉を投げた。投げ終わってみたら、あんまり無難じゃなかった。
「君、意外と古いね。語彙が」
マリンが少しだけ口元を緩める。
「先生、一体どんな魔法を使ったんですか。俺の恋心を操る魔法ですか」
次の授業に入って来た学生達が変な顔をしながらこちらを見てくる。
「あのねぇ」
マリンは荷物をまとめて教室の出口に向かいながら話を続ける。栄は素直についていく。
「まず、人の心を操る系の魔法は法律で禁止されていること、新妻くんぐらい賢い子なら知っているでしょう?」
「ええ、もちろん」
賢い子だって! 賢い子。
「それからね」
教室をでて、廊下の隅でマリンはこちらをを振り返る。
栄より少し背が高いマリンの顔を、見上げる。
「私は魔法士じゃないから魔法は使えません。何度言ったらわかるの? 法学部の教授が全て弁護士ではないように、魔法学部の教員が、全員魔法士だと思ったら大間違いです」
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