1章 ー2人ー

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夜も明けきらない霧がかる空。 平凡な世界が一変して、妖精たちと人間の住む世界が繋がる時間帯。 それは、霧深い森から訪れた。 妖精の淡い光を頼りに片手で光を仰ぎながらふらつく足並みで道へとたどり着いた。 「やっと道に出られた。ここから、どう行くんだろう。」 懐から地図を取り出し広げて空に翳す。 妖精の光が裏から地図を照らす。 「イヴァンの岬に行きたいのだ。ここはどこだい?」 地図に問いかければ光はチラチラと移動を始める。 地図の真ん中、山に囲まれた村を照らす光。 「岬まではまだ距離がある...川を沿って行けばいいのか。よし。ありがとう。」 地図を折り畳み懐へ仕舞い直す。 光はひらひらと宙を漂い、まるで遊んでいるよう。 「さて急ごう。試験は人数が集まり次第出発してしまう。先着順なんだよ。」 光を仰いで語り掛ける。 「人の目を避けて、急ごうか。案内をよろしくね。」 光はその強さを増しながら漂い案内する。 彼の姿は人ではなかった。 光に染まらぬ漆黒の髪はこの地には珍しい。 輝く金色の瞳もまた等しく。 その耳は伝説の生き物であるエルフを連想させる尖った耳。 微笑めば口元には小さな牙がある。 彼は人ではない。 人間には、伝説の生き物が多く伝わっている。 その中には、彼と深い縁のある吸血鬼という者もいる。 しかし、吸血鬼と呼ばれるヴァンピールは一部でしかない。 彼は吸血種。吸血を主な食事とした種族。それを裏の世界はラミアと呼ぶ。 学者は彼らを、“進化するように劣化した人間”と呼んだ。 彼らの食事は血液だが、人間の食事が食べられないだけなのだ。 臓器の造りが一から違う。 わずかな血液の摂取で数週間も生きられる者がいる。 細胞の劣化が乏しいため老いることも少ない。 不死身のような存在である。 しかしそれらの飢えはこの上ない拷問に値する。 そうして無差別に人を襲うようになった者が吸血鬼という鬼になる。 彼らはそれらを消すのも生業。 そんな一族の1人である彼が目指す先とは。
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