冷たい月

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まだ整わない荒い息を吐きながら隣を見れば、平然とタバコを吸う無表情の無駄に綺麗な女。 ストレートの長い黒髪が見蕩れるほど美しい背中でサラリと揺れる。 その背中がまるで俺を拒むかのように凛としていて、不意に胸が痛くなる。 さっきまで確かにその体温もその香りもこの腕の中にあったのに...俺が求めれば応えてくれたのに...。 カーテンの隙間から射し込む月明かりがその背中を照らし出して、一層その存在を遠く感じさせた。 ボンヤリとそんな事を考えていると、彼女...一之瀬智(いちのせとも)は不意にバスローブを纏い、部屋を出ていってしまった。 いつもの事なのに今日はそれも俺を寂しくさせた。 溜息を付きながら起き上がり、もう1枚のバスローブを羽織る。 サイドテーブルを引き寄せ、タバコに火をつけて目を瞑ると浮かぶのはやっぱりアイツの顔。 決して愛なんかじゃない。もちろん愛されてもいない。 「ほんま、俺懲りひんよなぁ...」 ふぅーっと煙を吐いて火を消した。 「なにが?ひとり言?」 見上げると智がグラスを2つ手に戻ってきていた。 「はい、コーラ氷山盛り。飲むんでしょ?」 グラスを手渡しながら、俺の横にちょこんと座る。 見た目クールなくせに思いがけず可愛いのがまたコイツのずるいところだ。 「さんきゅ」 ドキッとした心臓に気づかれないよう出来るだけ何でもない返事をする。 「くぁー!うんまっ!やっぱりコーラには氷いるよなぁ!?」 「いや、炭酸自体あんまり飲まないから分かんないけど」 ...そんな冷静に返さんでも良くないか...。
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