ヌスマセ

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 雨上がりの、少しひんやりするが、湿気の多い夜の町のコンビニに入る。店内は冷房が効いていて、一瞬で汗が引いた。  店員の「らっさいあせー」というやる気のない声をかけられながら、杉本(すぎもと)は店内を物色する。  もう夜の十時を回っているのに、そこそこ客がいた。  塾帰りらしい小学生がアイスクリームを選んでいる。ベージュのトレンチコート風の雨合羽を着た女がドリンクのショーケースの前でたたずんでいる。頭の悪そうな高校生のカップルが立ち読みしている。 「ねぇねぇたっちゃん、コレめっちゃ怖いんですけどー!」 「やめろよー! オレ、そーいう都市伝説系まじ無理めなんだって!」  周囲を省みず、高校生たちはぎゃあぎゃあ騒ぐ。  うるせぇな。  杉本は舌打ちした。  本来なら近寄りたくもないが、杉本が用があるのは、高校生たちのいる雑誌・書籍コーナーだった。彼はわざとらしく足音を立てて、近づく。  女の方が、ペーパーバックのコンビニ本を彼氏に見せつけた。血まみれの女が大きく口を開いて、『実録・新たなる都市伝説』と叫んでいるセンスの悪い表紙だ。  売り物であるはずの本を大きく開いて、女子高生が甲高く叫ぶ。 「雨の日に現れる怪人、『ヌスマセ』だって!」  どことなくまぬけに聞こえる単語が、店内に響いた。
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