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「ヌスマセ? 何ソレ、名前?」
「分かんなぁい。とにかく雨の日に現れるんだって。怖すぎー! 今日雨じゃん。マコのトコに来たらどうしよう……」
「ばぁか。オレが守ってやるって」
「たっちゃん、かっこいー!」
彼氏にかっこいいことを言われた女子高生が、感激のあまり抱きつく。その拍子に、間に挟まれた本がぐしゃっと潰れた。
(てめぇらの常識の無さの方が怖ぇよ)
カップルを蹴っ飛ばしたい衝動を抑えて、杉本は今日発売の少年漫画のコミックスを一冊取った。
動きの鈍い老女の順番を抜かしてレジに出す。叩きつけるように小銭で払うと、「あざーしたー」というやはりやる気のない声に送られ、自動扉をくぐった。
再び、舌打ちが出た。
やんでいた雨がまた降り出しているーーこれではコミックスが濡れてしまう。彼は財布と携帯電話だけをポケットに突っ込み、コンビニに来たのである。
どうしようか考えながら視線を下ろすと、出しっぱなしの傘立てに、ビニール傘が二、三本あった。
杉本はその中で比較的新しい、大きくて透明なものを選んで引っ張り出した。
それをさして、彼は悠々と帰路を辿った。
だが、すぐに雨はやんだ。通り雨だったらしい。
自然と三たび、舌打ちが。
こうなるとにわかに傘が邪魔に思える。どこか適当なところで捨てようか。
傘を下ろすと、あるものが、目に入った。
傘布の内側、プラスチックの小さな露先の近くに、何やら文字が書かれた紙が貼ってある。
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