◇一夜目◇

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 そこに立っていたのは一人の女。  サイズの合わないダボダボのコート姿。  その足には、これまたサイズの合わないガバガバの赤いハイヒール。  長いボサボサの黒髪で、その横顔は見えないが……  これは……関わるときっとろくな事がない。  そんな直感が俺の中に働いた。  女は呼び鈴に指を置いたままピクリとも動かない。  こちらに気付いていない訳はないだろうが……  俺はそのまま静かに自分の部屋へ戻ろうとした。    その時――  ぐるんっ!  突然、女の顔が勢い良くこちらを向いた。 「ひ……!」  長い髪の間から垣間見える、大きく見開かれた目。  その何とも不気味に血走った目は、真っ直ぐに俺を見据えて来る。  俺の体は恐怖で硬直した。  時が止まったかのように思えた刹那――  顔の角度はそのままに、女の体がゆらりとこちらを向いた。
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