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「……! あ、あの! お隣さんは多分お留守だと思うんで……で、出直された方が良いかと……!」
俺は回らない舌を無理やりに駆使して台詞を吐くと、急いで自分の部屋へと引っ込んだ。
慌ててガチャリと鍵を掛け、そのままへなへなとドアの前にへたり込む。
(何なんだ、あの女!? どう見ても普通じゃないだろ?)
『じゃり』という、ドアの向こうからの小さな音に、俺の心臓が大きく跳ね上がる。
かろり……かろり……
そんなヒールを引き摺るような音がして、それは俺の部屋の前で止まった。
(な、何で……!?)
未だドア越しにいる俺の心臓がばくばくと高鳴る。
『また来ます……』
そんなか細くくぐもった声が聞こえて来た。
かろり……かろり……
遠ざかるヒールの音。
「は……か、帰っ、た……?」
俺はようやく安堵の息を漏らした。
這うようにして寝室に戻り、再び布団へと潜り込むが、どうにも眠る事が出来ない。
あの女から感じた恐怖は、俺から完全に眠りへの道を閉ざしてしまっていた。
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