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◇
「で、その女のせいで一睡も出来なかった訳?」
「そうだよ、その女、マジでヤバかったんだって!」
同じバイト先の居酒屋に勤める、親友である江藤(えとう)に、俺は夕べの一件を話した。
「しかも、よく考えたら『また来ます』って……また隣が留守だったりしたらと思うと、本当洒落にならないよ」
「ふーん、隣に住んでるのってどんな奴?」
「さあ……会った事ないんだよな。引っ越しの挨拶も出来てないし。もしかしたら、あの女って実はストーカーで、隣の人はそれから逃げてるとか……」
「うっわ、それって超有り得る話じゃね? 難波ぁ、お前大丈夫かよ」
その江藤の一言で、俺のテンションは一気に奈落の底へと突き落とされた。
「やっぱヤバいよな……今日中に円満解決してりゃ良いけど、んな都合良く行く訳ないよな」
「まあまあ、その女の目的はお前じゃないんだろ?」
「そうだけどさ、結局は俺に皺寄せが来るんだよ」
「適当に無視すりゃいいんじゃないの?」
そんな本当に適当な提案をする江藤を、俺はジロリと睨み付けた。
あの地獄のような時間を知らないから、こいつはこんな事が言えるんだ――
「ああ、帰りたくないなぁ……」
だからと言って、まだ引っ越したばかりのアパートを引き払う資金など、俺に残されている筈もなかった。
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